大きな窓から差し込む夕陽に。
要くんの笑顔が透ける。

オレンジ色の柔らかさは。
この人の笑顔の温度なんじゃないかと、錯覚する。


「あっは。笑
変なこと聞いて、ごめんね。」

 

あっさり立ち上がって、伸びをした彼に。

これは、私が作った個数を知りたかったんじゃなくて。
2個目が誰のものだったかを知りたかったんじゃなくて。

七瀬くんに作ったのかどうかを、測りたかっただけなんだと気づかされる。





「私は、どっちの味方、とか。ないからね?」


当たり前のことを、小さな声で念押しした。

別に、七瀬くんには頼まれたからパス発行しただけで。
要くんにだって、頼まれてたらすぐ作ってた。




「え、そうなの?笑
俺の味方だと、思ってたけど。」



悪戯に、私を覗き込む彼に。
この笑顔にまだ堕ちない、理沙さんも理沙さんだと、今更ながら感心する。



「要くんもさ、ちゃんとしてると王子様っぽいよね。」

「本当?じゃあ、跪けば俺のとこに来てくれるかな?」


思わず、返答に詰まると。
ていうかちゃんとしてればって何だよ、と彼の方が笑い出した。


誰も彼も。
余らずに幸せになれればいいと思うのに。


理沙さんが一人な限り、一人しか結ばれない。
少し前までの、私にとっての。
直生さん、みたいだ。














要くんが帰って、やっと溜まったメールに一通り返信をし終えた頃。

震えた携帯を、肩を揉みながら覗き込む。



“俺も仕事終わりました。
もう家なら、少し寄っていい?
顔が見たい。”


カァッと燃える頬に。
慌てて「家じゃないです」と返信しようと、手を伸ばしたら。


“家じゃないなら、連れて帰るよ。”

「・・・!!!」




思わず、反射的に立ち上がったら。
あの時みたいに、デスク横の資料が一気に倒れた。

スローモーションのように、バラバラと散る紙切れを。
呑気にも、綺麗だな、と感じた。






あの日から、直生さんからのメールをいちいちスクショしなくなったのは。


慣れたからでも、彼と進展があったからでもなくて。





あの夜から、視線も、言葉も、挨拶も。
彼が与える何もかもが。
信じられないほど、甘く、くすぐったくて。

ガラリと変わった世界の色に、私はいちいち追いつけなくって。



携帯が、彼の名を浮き上がらせる度に。

ただ、これはあのジオラマの夜の続き。
長い夢を見ているんじゃないかと思ってしまうからだ。