大学を卒業して、一緒に暮らし始めた。
バイト感覚だった夜の仕事も、「なんとなくなら、辞めろ。」と言うから。
ああいう、わりとちゃんとした始め方になったんだと思う。
翔さんが、私の世界で。
私の全てを担っていた。
私が笑うと、嬉しそうに笑ってくれた。
私が泣くと、困った顔で抱いてくれた。
初めて、幸せが過ぎると涙が出ることも知った。
だけど。
東京の美容院を全て譲って、NYに行くと言い出してから。
最後まで、
「一緒に来るか?」とも
「一緒に来い。」とも。
何も言ってくれなかった。
代わりに、共に暮らした家はいらないなら売ってくれていいと言い。
ママの店を継ぐなら、NYにも支店を出せよと笑った。
会いに行くから、と。
出発の、朝。
いつもと変わらず、「行ってくるよ」と出て行く背中に。
いつもと変わらず、『気をつけてね。』と手を振った。
あの朝、私は。
心臓の半分を、失った。
音もなく、静かに消えたから。
翔さんのいない毎日は、何事もなかったかのようにまた始まった。
あんなに全てだった人がいなくなっても、普通に始まって終わる毎日。
自分は意外に、強かったんだと安心した。
ある夜、倫くんと食事をしてる最中に、彼から送られてきた絵葉書を見た。
差出人の住所は、当たり前にNYで。
希望していた大きな美容院に、見習いとして入れたこと。
毎日シャンプーばかりしているけど楽しい、と書いてあった。
そうしたら、突然。
自分は一人になったんだと、やっと身体と心が繋がった。
孤独なんだと。
もう、守ってくれたあの人は戻ってこないんだと。
視界が、どんどん暗くなって。
胸が、詰まるように重く苦しくなって。
私はそのまま、過呼吸を起こした。
倫くんがいなければ、あのまま死んでしまってたんじゃないかと思う。
それくらい、苦しくてもがいて怖かった。
突きつけられた孤独は、とてつもない恐怖で。
私はそれを手に取って感じる度に、呼吸を見失った。
さっき、怖かったのは。
あのときの、孤独。
情けなく、自ら闇を確かめては不安に酔いしれていた自分。


