やばい、挨拶が遅れたと思い口を開こうとした時。

相手が私を驚いた顔でジッッと見ていることに気づいた。





航大とは違う、都会的な野生っぽさ。
ストレート感の残る無造作ヘアに短めのヒゲ。

色黒なのに清潔感があるのは、ヒゲが綺麗に整えられているのと、全体的にキリッとした顔のパーツのせいかな。

だけど、目を思いっきり丸くして、ひどく驚いた顔で私を見てる。




やばいなぁ、どこかで会ったことあるのかな?
仕事柄、そういうのはほんと気をつけてるんだけど。

なんと声をかけるか・・・
よし、ここは無難に。






『こんばんは♡』

出来るだけ優しく、親しげに声を出した。
秘儀、どっちでも大丈夫挨拶。二度めでもお初でも、いい感じに対応できる。

けど、彼は一瞬ビクっと小さく動いただけで、何も返してこなかった。




「いやいやいや。笑
緊張しすぎだから。理沙ちゃんごめんね~。」


直生さんに肩を叩かれて、やっと彼が発した言葉は。


「・・・あ、すいません、初めまして・・・」


驚いた表情のまま、棒読みでロボットのように呟いた彼に、ついに我慢できなくなって。


『・・ぷっ、あはっ、あははははっ・・・』
吹き出してしまった。

可愛い!おもしろい、なにこの人!


そんな私に、はっと我に返ったように「すいません、すいません」と言いながら左手で赤くなった顔を隠し、背中を丸めた。



「もう~動揺しすぎでしょ。笑」


心底楽しそうに笑う直生さん。仲良しなんだなぁ、この二人。



「こんばんは」今さらながら挨拶を返してくれた彼は。
私のほうを見ずに、下を向いたままグラスを掲げたけれど。



その声は、ひどくひどく甘かった。
身体の中で唯一、鼓膜が震えたのを感じた。





これが、“要 陽斗(かなめ あきと)”さんとの初対面だった。