お疲れさまです、と。

アヤちゃんはまた、いつもと違う場所で車を降りて行った。


最近のアヤちゃんは、きっと恋をしてる。

つまらなそうだったり、あまりにも分かりやすく嬉しそうだったり。
感情表現がとても豊かで、そうかと思えば色っぽく笑う。


窓から見える、きっと好きな人のところへ息弾ませ向かう背中。

いいなぁ、艶っとしてて。







「理沙さん、ラジオつけていいですか?」

『うん、どーぞ。』



先輩とアヤちゃんと乗り合わせた、仕事後の送りの車。

先輩はもちろん優先して。そわそわしてるアヤちゃんのために、今日はアヤちゃんにも先を譲った。
運転するボーイくんと、私の2人きり。



ぼんやり、何かの番組でパーソナリティが喋ってるのを、声だけ聞き流しながら。
星が見えないかな、と夜空を探してた。






瞬間、聞こえてきた歌声が。

彼のものだと気づくのに、1秒もかからなかった。



甘く、脳みそを震わすような。

澄んだ声が体に溶ける。

夕陽が海に沈んでいくように。

心が、温かく満たされていく感覚。








『もうちょっと、おっきくして?』

「あ、はい。理沙さん、要陽斗好きなんすか?」

『うん。好きだよ。』



自分もっす、と嬉しそうに笑いながら。

ボーイくんが程よくあげたボリュームで、車内に陽斗くんの声が響いた。



この歌を、別の人が歌ってるのを聞いたことがある。
きっと、陽斗くんがカバーしてるんだろうな。





冷たい窓の感触を頬に感じながら。

私、何してるんだろうとぼんやりする。




“よく見て、選んで。そして決めてくれればいい”



あんなに、優しい人。

私の人生で、きっと最後だ。
























シートにもたれて、目を閉じた。

彼の声の中に、体が末端から溶けていく錯覚。





“歌うときも話すときも”

“俺はいつも理沙子を思ってる”





愛を唄う歌詞と、あの朝の言葉が重なって。






なんだか私は

涙が出そうだと思った。