「そんな顔させて、ごめんね。」


やっと頬を解放したと思ったら、甘い手つきで髪を撫でた。



『いや、私の、ほうが。いろいろごめんなさい。
要さんは悪くない。』





ピクっと一瞬、寄った眉。


「・・・ねぇ、俺の名前。」

『え?』

「名前で呼んでって、言ったよね?」




だって、呼べないんだもん。
もうそんなこと、どうでもよくない?

出かけた言葉を飲み込む。




柔らかくも熱い視線は。
間違いなく、私の胸元に居座るクロムハーツに刺さる。






「航と昨日何してたかとか、そういうことを責めるつもりはないけど。」






右耳に近づく、口元。






「ただ、俺は本当に嫉妬深いんだよ。
まだ分からないの?」







チクっと 走った感覚は

髭が頬に触れたものだと気づく。







「困ったな。」




ゆっくり離れて、髪を撫でながら呟く。

下がった眉毛と、黒いレンズの向こうの“困った”瞳。




まさに、困った、悩ましい表情なのに。

なぜにこうも、愛しさを発してくるんだろう。