大きく胸の開いた黒いTシャツに、薄い水色のハーフパンツ。
足元は、グレーのニューバランス。
この人、こんなカジュアルな格好もするんだ。
・・・やばい、けっこう好きかも。
『びっくりした。いつの間に、来てたの?』
「脅かそうと思って、こっそり近づいたから。」
『忍者か。笑』
抜き足差し足。
想像したら可愛くて、ちょっと笑える。
すっと一歩近づいて、両手で私の頬を包む。
「忍者?笑
ほんとに、言うことまで可愛いな。」
サングラスの奥の目と目が合って。
熱が、上がる。
『ひ、人前ですが・・・大丈夫でしょうか・・・?』
「うん、全然大丈夫。」
分かんなくない?
すごい人気のグループなんでしょ?
どこで誰に撮られてるか、分かんないじゃん。
それなのに、要さんは一向に私の頬を解放しない。
一瞬、柔らかい眼差しが光った気がした。
急に胸元のクロムハーツが冷たくなる。
「朝まで航大といたの?」
やばい。
すっかり忘れてた・・・
朝方の着信、不機嫌な航大の電話の相手。
やっぱり要さんだったんだ。
『え、あ、う、うん。電話、ごめんなさい。
あのね、航、』
「いいよ、何も言わなくて。聞いても俺は、変わらないから。」
トーンは変わらず柔らかいまま。
だけど、しっかりした口調で私の言葉を遮った。
私、今、何を言おうとした?
“やましいことは何もないの”?
“うっかり、キスしちゃっただけなの”?
やましいことも、キスに参加した感も、しっかりあるだろ。
最低。私、嫌な女だ。


