「だいぶ。すいません相川さん」

「こんなときはありがとうの方が嬉しいな」


「……ありがとう、ございます」


「はい、どういたしまして。

俺、泣き顔って結構ツボなんだよね。キス、したくなる」


シリアスだったはずなのに、ころりと声音がイタズラなものになった。



「何言ってるんですか、変態」

「酷いな、泣き顔って可愛いだろ?」

「ヤメテクダサイ、そんな同意求められても困ります」

「えー、だから今の櫻井可愛いって言ってるのに」

「お世辞はありがたく受け取っときます」

「本音本音」

「そーですか」

「なんだよ、だから俺の前では心置きなく泣けよ」

「新手のセクハラですか、コンプライアンス課に連絡しときます」

「マジなやつだな、それは止めろ」

「考えときます」

くすり、自然と無意識にこぼれた笑みに相川さんは、優しく微笑んだ。



「元気だな?」

「……っ」


いつもの相川さんのノリに乗せられて、気づかぬうちにすっかりいつも通りに会話をしていて。

さっきまであんなに泣いていたのに。


「…………相川さんには、お世話になりっぱなしですね」

「可愛い後輩の為だったら、一肌でも二肌でも脱ぐってのが先輩ってもんだろ」

「実際には脱がないで下さいね」


「櫻井、」

急に真面目な顔をするから、何を言われるのかと身構える。



「なんで俺の言おうとしてたことわかるんだよ」

「…………冗談だったんですけど」

「全く、そんな子に育てた覚えはないぞ」

「育てられた覚えもありませんが」

「うん、育ててないからね」


こんなくだらない会話を繰り返していたら、水瀬のことも大したことないと思えるようになって。

「相川さん、これから暇ですか。暇ですよね」

「はいはい、暇で悪かったですね」

「付き合ってください、私の愚痴に」

「のろけじゃなければ」

「さっきビンタかましてきました」

真顔で言えば、口笛鳴らして相川さんも真顔で返してきた。

「話を聞こうか」

「それはどうも」

野次馬根性かよ、結局は、そう見せておきながら本当の本音では心配してくれていると、分かっているから。