「そ、そんなもらえません」 「絵描きがこんなところで一人でいてもなかなか客は寄り付かないものだが、君が隣にいてくれたお陰で客を大勢引き寄せてくれたし、寂しくもなかった。お礼がしたいんだ、受け取ってくれないか?」 老人の感謝の気持ちが伝わり、面相筆を持っている手が見えない力で押し戻されてくる。 「ワシはそろそろ引退しようと思っていたところなんだよ。元気でな」 老人は私の肩をポンと叩き去っていこうとしたが、なにか思いついたのか足を止め、再び私を見詰めた。