【短編集】その玉手箱は食べれません



 似顔絵を描くなら最適な毛先の細い面相筆は見た目も持った感覚も至って普通。人差し指と親指で力を加えてはね返ってくる毛は弾力があり長さもタヌキの毛と同じくらい。


 ただ、商店街からもれてくる照明の灯りに筆をかざすと茶褐色だった毛の中に鮮明な赤がひそんでいた。


 赤い毛?何の毛だろう?と不思議に思っていると若いカップルが私の前に立った。


「彼女の顔を描いてくれないか?」

 金髪で唇にピアスしているいまどきの不良を演出した格好の若い男が、意外と丁寧な口調で似顔絵を注文してきた。