「トイレ?」

「見てていいよ。行ってきます」

「ありがと! 行ってらっしゃーい」

 トイレをすませ教室に戻ると、愛大はプリントの表ではなく裏の白紙部分を見ていた。血の気が引いた。

「ちょ、待って、見ないでっ!」

 忘れていた! 裏には自作の詩が書いてある。授業は一応聞いているけど歴史の授業は退屈でつい余計な落書きをしてしまう。小学生の頃からのクセだった。中学の時は高校受験を意識していたのでこのクセをわりと抑えていられたけどたまにやってしまったし、最近は良くも悪くも気持ちが緩みやすくうっかり夢中で書いてしまった。

「すごいよ、これ。こんな綺麗な詩、アタシは書けない」

 お世辞じゃなく本気で褒めてくれているのが伝わってきた。そんな風に言ってもらえるのは初めてだった。

「違う、それは……。下手の横好きっていうか。笑えるよね」

「そんなことない。下手な詩だったらこんなに引き込まれないよ。涼は才能あると思う。アタシこの詩に曲をつけたい」

 言いながら、愛大は短い詩を何度も繰り返し読んでいた。

 小学校低学年の頃だったと思う。ノートの隅に書いた詩をたまたまお母さんに見られてしまった。

『何これ。意味分からないんだけど』

 投げやりな感じでお母さんは言った。愛されたい気持ちを花の変化に喩えて綴った詩だった。直接的な表現はしなかったから意味が通じないのも仕方ない。それでもショックだった。お母さんにだけは伝わってほしかった。