空を祈る紙ヒコーキ


「すごいな。勉強にそこまで熱意持ったこと俺はないから。もしかして医者とか弁護士とか政治家になるのが涼の夢?」

「まさか。そこまで高望みしてない」

 これも嘘。なれるものならそういう肩書きを持った大人になりたい。権力や地位は人を組み敷く。人は心のない人に従わないとよく言うけれど世の中はそうでもない。意地汚い大人や私利私欲にまみれた権力者が上手に世の中を利用して弱いものからお金も時間も搾取している。

 私も搾取する側に行きたいと思った。弱い者いじめをされるのは子供時代だけで終わり。あんな思いは二度とごめんだ。踏みにじられる前に踏みにじりたかった。

 でも、高校受験に失敗した時点でそういう方向への道は閉ざされた。子供の私にもそれは分かる。だから失望した。

「かっこいいな、涼って」

「そんなことないよ」

 昔自分をいじめていた奴らを見返したい。お母さんの愛情がほしい。それが高学歴を望んだ最大の理由。不純な動機。みじめでカッコ悪い。結局私も自分をいじめていた奴らと同じ汚い人間なんだ。

 空には話せなかった。前までだったら別にどう思われてもいいと開き直っていたからわざと幻滅させるためにこういうことも話したかもしれない。今は話したくなかった。

 空に嫌われたくない。

 春の晴空みたいに、夏の海のように、秋の紅葉のように、冬の雪景色みたいに、はかなく綺麗な心を持った空に否定されたら世界の終わり。そう思った。こんな純粋な人に嫌われたら二度と立ち直れなくなりそうでこわかった。