それまでわりと元気にしゃべっていた空は、突然消え入りそうな声になった。

「そうだよな。しょせん俺の生き方は自己満足でしかなかったんだ……。今だって」

 ぼそぼそして聞き取りにくいけど、空はたしかにそう言った。
 
 何の話?

 そう訊こうとして言葉を飲み込んだ。知ってどうするわけでもない。それに深入りするつもりもない。空もそれを望んでるんだし。

 それに、下手に訊いてしまっては面倒に巻き込まれる。そう直感した。

 それまでポンポンしゃべっていた空が沈黙した。何かを考えているのか、私の反応を待っているのか……。判断できない。

 よく考えたら私達は初対面も同然なんだからぎこちない空気になるのは当然かもしれない。でも、このタイミングで訪れた沈黙がひどく不自然な気がしてしょうがない。陽気な印象の空がこうも静かだと何も言わなかったことを無言で責められている気すらしてくる。

 さっきは緊張しない相手だと思っていたのに、今はひどく気まずさを感じる。コイツと話していると良くも悪くも色んな気持ちにさせられる。

「ただいま〜!」

 下の玄関からお母さんの声が聞こえた。私達に向けた帰宅の挨拶。暁や夏原さんの声もする。

「涼も空君も下りてきなさーい。できたての鰻よ〜」

 珍しくお母さんの声が陽気だ。もしかしたらお酒を飲んできたのかもしれない。だからってわけじゃないけど、空と二人きりじゃなくなってホッとした。沈黙から逃げられる。

 お母さんの声をたどるように顔を上げると、久しぶりに空と目が合った。

「やっと飯だな。腹減った〜」

 空はすっかり元通りだった。