空を祈る紙ヒコーキ


 頬も痛いけど、それ以上に心が痛かった。

 好きで反抗しているわけじゃない。お母さんと言い合いがしたいわけじゃない。本当はお母さんの望む可愛い娘になりたい。でも無理。

 少しでいいから優しくされたかった。進歩がないだなんて言われたくなかった。これでも一生懸命頑張ったのに!

 涙が出そうになる。

 唇を強く噛むことで泣くのを我慢し、アパートを飛び出した。玄関を出る直前、お母さんが引っ越し用に詰めた段ボールの角がつま先に当たり激痛が走った。

「こんなトコに置いとくな!」

 痛み任せに怒鳴ることで悲しみを紛らわせようとしたけど無理があった。自分の叫び声が胸を貫き、抑えていた涙が溢れてくる。

「涼! 待ちなさい!」

 お母さんの声を無視して外まで一気に駆け出した。何も聞こえない場所まで行きたい。

 体は変に熱いのに心はどんどん冷えていくーー。

 春先の天候は穏やかで、早くも花を咲かせている桜の木もあった。だけど、淡い桃色とあたたかな日差しも今は心に届かない。

 どうして私ばかりこんな目にあうんだろ。

 頑張ったのに。

 ああ、そっか。悪いことをしたから天罰ってやつが落ちたのか。

 ネットにクラスメイトの悪口を書き込んだ罰。

 アミルと離れたいって願った罰。

 昔、お母さんに可愛がられている暁に嫉妬していじめまくった罰。

 生後一ヶ月にも満たない暁の体や顔を、寝ている時を狙って何度も足で踏みつけて泣かせ、お母さんに注意されてもやめる気にならず繰り返し同じことをした。幼少時とはいえ残酷なことをしていたなーと思うも反省はしていない。私だってお母さんの愛がほしいしかまわれたい。暁が生まれる前は私がその位置にいたのに奪われた。許せない。それが素直な気持ちだった。


 悪いことをしたら自分に返ってくる。そういうものかもしれない。だけど、だったらなんでいいことは起こらないの? 悪いことばかり身に降りかかるなんて、どう考えてもおかしいだろ……。


 走って走って、走り続けて、見知った景色が知らない街に変わっていく。

「はあ、はあ……」

 さすがに呼吸がつらくて立ち止まった。

 目の前には住宅街に囲まれた広い緑地公園があった。春休みだから家族連れや小学生の姿が多い。高木の葉が作る日陰は少しだけ肌寒かった。