空を祈る紙ヒコーキ


 認知症とは違う。空の場合は病院で検査しても脳に異常はなかったそうだ。若年性健忘症は精神的な強いストレスを受けた時にも発症することがあるという。宝来君の死の理由を歩君に知らされたことが若年性健忘症の引き金になったと考えていい。

「紙ヒコーキ飛ばしたり最初からズレたヤツだとは思ってたけど……。人のことばかり心配して、空は本当に馬鹿だよ。大馬鹿だ……」

 無意識のうちにつぶやいていた。誰に言ったつもりもない。だけど誰かに届けたいような気持ち。いつの間にか頬は涙に濡れていた。もらい泣きなんてするタイプではなかったのに。

「涼ちゃん、愛大ちゃん、お願いします」

 ソファーから降り、夏原さんは私達に土下座した。

「空の心はたくさんの愛と友情でしか癒せない。どうかアイツを助けてあげてほしい……!」

「言われなくても絶対助けます。アタシ達にとって生徒会長はたった一人の生徒会長ですから!」

 愛大は涙声で元気に答えた。私も強くうなずき、空を探すため外へ出ることにした。

「こういう時、空が行く場所は決まってるから」

 夏原さんは言い、私達にタクシーチケットをくれた。それまで黙って私達の話を聞いていたお母さんがいそいそとタクシー会社に電話してくれた。

「空君と暮らすようになって気付いたのよ。この歳になると性格なんて変えられそうにないけど、これからは私もアンタにばかり甘えないようにするから。空君のことしっかり頼むわね。私達の大事な息子なんだから」

 お母さんらしい偉そうな言い方に今は深く安堵した。空に出会った時から、きっと私はお母さんに多くを求めなくなっていた。もう大丈夫。