「今は空をひとりにしたらダメなんだよ!」

 暁のそばについて小麦粉をふるっていた夏原さんが手を止め私達を見た。

「涼ちゃん、何かあったの?」

「夏原さんは知ってますか? 空が人殺しってどういうことなのか!」

「……そうか。アイツ、涼ちゃんには話したんだな」

 ケーキ作りの手を止めると、夏原さんは私と愛大をリビングのソファーに座らせた。お母さんと暁も雰囲気を察し黙ってリビングの椅子に腰掛けた。

「君は?」

「対馬愛大です。涼とは入学以来仲良くさせてもらっていて、生徒か……夏原先輩とも同じ部活で大変お世話になっています」

 夏原さん相手なので気を遣い、愛大は空のことを生徒会長と呼びかけ、やめた。

「そう。愛大ちゃんか。こちらこそいつも空が面倒かけてるね。今日もアイツを心配して訪ねてきてくれたんだよね、ありがとう」

 愛大は首を横に振った。私はこれから夏原さんが語ることに不安と恐怖を感じていた。愛大も同じだと思う。

「涼ちゃん、愛大ちゃん、大丈夫だよ。空は絶対自分では死なない。自分で死を選ぶ、その選択が親にどれだけの悲しみを与えるのか、空は身近で目の当たりにしたから」

「それは空が親友を殺したと言ったことと関係してますか?」

 夏原さんは静かにうなずいた。

「空には生まれた時から親しくしていた幼なじみの宝来(たから)君という男の子がいてね。私もかつて宝来君の親御さんにはすごく良くして頂いたんだよ。都合が合えば両家の家族全員でバーベキューしたり旅行に行ったりいちご狩りに出かけたり、それはもう本当に楽しくて、家族ぐるみで仲良くしていたんだ」

 前に空の部屋で見た写真を思い出した。一人だけやけにたくさん写っている男の子がいた。あれが宝来君なのかもしれない。