空を祈る紙ヒコーキ


「すごいじゃない! さすが涼はお母さんの子ね」

 普段はネチネチと小言のうるさいお母さんも、テストでいい点を取った時だけは笑顔で褒めてくれた。その顔を見られる時だけは唯一穏やかな気持ちになれた。

「これからもその調子で頑張りなさいね」

「うん!」

 お母さんが笑顔になるこの瞬間だけは全ての罪を赦されている気がした。ネットでこそこそ同級生を叩いていることも、かつて幼い暁に暴力を振るったこともーー。


 勉強ができること以外何の取り柄もないけど、それでよかった。それ以上のものなんて求めてなかった。

 勉強ができることで親の噂をされることは減った。離婚したばかりの頃は露骨にからかわれたけど、最近は勉強を教えてほしいと言ってくるクラスメイトもいる。

 このまま平穏に中学生活を終え進学校に入学し、将来にプラスになる大学へ行って立派な大人になる。誰にも馬鹿にされず、男の人を頼らなくても生きていけるような強くて自立した女になる。

 それが私の夢で唯一の希望だった。

 それなのに、そのひとつかみの夢すら叶わなかった。

 世の中の不公平さを痛感した。


 高校受験は失敗。第一志望の進学校へは行けず滑り止めで選んだ私立高校に行くはめになった。

 滑り止めなど興味がなかったし第一志望に落ちることなど全く考えていなかったので、保守的な担任が選んだ無難な私立を選んだ。滑り止めは自分の実力より数段ランクの低い学校を選ぶのが当たり前だと担任は言った。

 自分のクラスから不合格者を出すわけにはいかない。遠回しに担任はそんなことばかり言っていた。