恋愛は相手と両想いにならなきゃ成立しないんだから、私さえおとなしくしていれば大丈夫。
このままでいい。このままがいい。そう思っていたのに。
六月の夜、その瞬間は予想なくやってきた。
お母さんと夏原さんは暁を連れて少し遠い店に外食しに行った。私も誘われたけど、今はひとつでも多くのフレーズを詩に起こしたかったので断った。
簡単に夕食をすませてしまおうと思い一人ダイニングでカップ麺のフタをめくっていると、階段を降りてくる足音がしてドキッとした。梅雨の雨音に埋もれていてもはっきり聞こえるその音。足音の正体は見なくても分かった。
「ギターやりたくて俺も行くの断った」
ダイニングにやってきた空は少し困ったように笑った。そういう顔で笑うのを久々に見た。学校では部長らしく頼もしい顔をしていたし、笑う時も爽やかさ一色だったから。
久しぶりに家の中で二人きりになった。そう口に出しそうになりやめた。
「カップ麺しかないよ。夏原さん昨夜食材使い切ったみたい」
「さっき父さんにもらった。涼の分もって。これで出前取ろ」
空は言いポケットから一万円札を取り出した。夏原さんは私の夕食のことも考えて空にお金を渡したらしい。前までは何とも思わなかった夏原さんの親らしさに最近では感謝できるようになった。お母さんの娘とはいえ血のつながりがない私にここまでしてくれてありがとう、と。

