歌い終わると今までに味わったことのない爽快感で気持ちが昂ぶっていた。
「すごいよ涼! カラオケ来慣れてると思うくらい声量あったよ!」
「ああ、ボーカル向きだ。涼はポテンシャル高い!」
そこまで褒められると照れるけど素直に嬉しかった。お母さんにテストの点を褒められた時より、父親にパチンコ屋の景品をもらった時より、何倍も何十倍も嬉しかった。むしろ、あんなのは喜びでも何でもなかったんじゃないかと過去の自分の感情を疑ってしまう。それくらい今が幸せだった。
モチベーションの高さと評価の高さが一致するなんて、私の経験ではそうそうないことだった。それが今たしかに実現している。
楽しい。嬉しい。もっと欲しい。世の中にはこんなに気持ちが高まることがあったんだ!
もっと歌いたい。人の作った曲でここまで高揚するのだから、私達のオリジナル曲を歌ったらこの興奮の比じゃないだろう。
バンド活動に熱意を注ぐ空と愛大の気持ちに、この日初めて共感した。それまではどこか違う世界の人に感じていた二人との距離が縮まった気がする。愛大と空も同じように感じていてくれたらさらに嬉しい。
その日は私の歌の練習がメインだったので私が三曲入れた後は二人が一曲ずつ入れる感じでローテーションした。空も愛大も流行りの曲に詳しく歌もかなりうまかった。それでも二人はメインボーカルは私が適任だという意見を変えなかった。はじめは抵抗していた私も、この日の練習が終わりカラオケボックスを後にする頃にはボーカル決定を受け入れていた。
「歌の練習がこんなに楽しいとは思わなかったよ〜! カラオケ好きになりそう」
今まで、練習と名の付くものには何回も参加してきた。体育祭の練習、球技大会の練習、絵画の練習、リコーダーの練習。学校生活で避けて通れないこととはいえやりたくもないことに時間を費やすのは苦痛だった。いつしか練習という単語を耳にするだけでうんざりするようになっていたけど、今日の練習は全然嫌じゃなかった。

