「プレジャーディレクションのための歌を書いてる時、時間を忘れて楽しめた。唯一身についた勉強ですらあんなに夢中になれたことはなかった。私、二人と一緒にここで頑張りたい。楽しみながら輝きたい……!」
私の言葉の続きを引き取るように愛大が言った。
「アタシにとって大事な居場所だったラズベリーを無くして、ホントはすごく怖かった。可愛い制服着ることしか高校には楽しみがない。そんな気がして不安だった。このまま色のない三年間を終わらせてしまうのかなって」
愛大も愛大で葛藤していた。
「でも、自分から動けば現実は変えられるって分かった。過去も大事だけど振り返ってる時間がもったいないよね。アタシはこれからここで活動してくよ。だって、二人となら楽しいに決まってるから。そう直感したから」
私達の想いは気持ちいいくらいに一致していた。性格も趣味も違うのにこうして心は重なった。試験でどんな難問を解くより快感を覚える瞬間だった。
「俺も気持ちは同じ。そうと決まったら練習だな」
空の目もいつになく輝いていた。
愛大が曲を入力すると『名づけられた葉』の伴奏が流れた。当たり前だけど実際の合唱で流れるピアノ演奏とは音質も空間も違う。だけど、だからこそよかった。私はマイクを取り、今度こそためらいなく声を出した。
腹筋を意識して腹から声を出す。中学の頃に音楽教師が授業中に言っていた言葉を思い出しながら歌った。人前で歌うなんて恥ずかしかったはずなのに、今はただ表現したいという想いだけで歌うことができた。
無意識のうちに歌声に想いがこもる。裏サイトでの書き込みや暁をいじめることで発散していたやり場のない感情、普段口にはできない気持ちが歌詞に引き出されて声に重なる。

