空を祈る紙ヒコーキ


 最初はグチに付き合った。私も父のことは見損なっていたし、根に持つお母さんの気持ちも分かる気がしたから。

 でも、さすがに何度も同じ話を聞かされるのは娘とはいえ嫌気がさしてきた。

 中二の頃、思い切って母に言った。

「もう別れて三年だよ? お父さんのグチ言うのそろそろやめよ。終わったことじゃん。今彼氏いるんだよね? お母さん幸せなんでしょ?」

「涼は冷たいわね」

 え……?

「お母さん、アンタ達子供のためにあの家でどれだけ我慢したと思ってんの? 今の暮らしがあるのは誰のおかげ? 正社員の仕事が見つかったとはいえお金は出ていく一方だしろくに休みも取れないし子供二人抱えてしんどいのよこっちは」

「……お母さんのおかげだよ。ごめん」

「もういいわよ。無理に聞いてくれなんて言わないから」

 どうして私が怒られなきゃいけないんだろう。こっちは産んでなんて頼んでいないのに都合が悪くなると産んでやったみたいな言い方をする。父もそう。大人はみんな勝手だと思った。

 そうやって私を追い込み何も言えなくさせたことなどすっかり忘れ、数日後お母さんはまた父の悪口を延々話してきた。真面目に聞いているのがアホらしく、右から左に聞き流すことを覚えた。

 お母さんは知らないけど、私は私で学校で嫌がらせを受けたこともあった。特に離婚直後はひどかった。靴を隠されたり、身に覚えのない悪口を大声で言われた。

「学校で嫌なことがあったんだけど……」

 一度だけそう話したことがある。するとお母さんはたった一言こう言った。

「学校生活なんて一生続くわけじゃないんだから我慢しなさい」

 何も分かってない無神経な人だと再確認させられただけだった。