和也と聖羅は、ふたりそろって渡辺教授の次の言葉を静かに待った。
「確かに聖羅には、知る“権利”と知らねばならない“義務”があるが、別に“知った”からと言ってどうこうしろというわけではないんじゃよ。
“知った”上で、これからどうするかを聖羅に判断して欲しい。
知ってもらいたいが、だからといってその後に何かを望んでいるわけでは無い。
全ては、聖羅の思う通りに…。」
聖羅は、とんでもない事をお願いされている気分だった。
つまり、組織の情報や研究資料を分析した上で、あとは煮るなり焼くなり好きにして良いと言われているわけだ。
聖羅ひとりが声高に叫んだところで、すぐに潰れるような組織では無いが、要は“使い様”って事。
「どうして…。」
「全てはおまえさんの人柄なのかもしれん。
おまえさんのおかげで、わしはあの荒んだ組織の中で“人の心”を保つ事が出来たのじゃ。
あとの事は、全て聖羅に任せる…。
厄介なじいさんで本当にすまないのぉ…
聖羅、ありがとう…
… 」
笑顔だった。
教授は、聖羅が今までに見せたことの無い笑顔だった。
そして、教授の顔から笑みがゆっくりと解けたかと思ったら、そのまま机にゆっくりと伏せた…。
まるで、スローで映画か何かのワンシーンでも見ているかのような感覚で、聖羅と和也は教授を見ていた。
ふたりの意識がハッキリしてきた時、目の前にあったのは、骨と皮だけだった。


