「和也くん、聖羅がそう思うのも仕方が無いんじゃ。
だから、こうして聖羅がわしの話を聞く気持ちになるまで、何年も待った…。
わしの役目はもうすぐ終わる。
聖羅、もうしばらく、じじいの戯言に付き合ってくれんかの。」
そう言って、落ち着かないふたりを静かにさせたのは、そもそもの騒ぎの元凶・渡辺教授だった。
確かに、聖羅も「話を聞く」つもりでココへ来た。
ここで、怒りに任せてぶち切れる事は簡単だが、この機会は教授だけで無く、聖羅にとっても考えに考え抜いて決めた、「話を聞く」機会だ。
教授が数年待ったように、聖羅も同じ期間、考えた上でココに居る。
それを、感情に任せて壊してしまうには、あまりに浅はかな行動だと、聖羅も思った。
まだ眉間に皺を寄せながら、聖羅は再び椅子に座る。苛立った空気を醸し出したまま…
「わかりました。
続きをお願いします。」
「うむ。
ここからの話は、わしの一方的な願い事じゃ…。」
渡辺教授の目が、少し悲しげに曇る…。
「何でしょうか?」
「聖羅、おまえさんにわしの研究データを託したい。」
「「え!?」」
「この部屋には、わしが生涯をかけて行った全ての研究と、組織でやってきた実験などの研究結果はもちろん、様々なデータが置いてある。
その全てを聖羅に委ねたい。
このデータをどう生かすか、そして組織と戦うために立ち上がるか否か、全ては聖羅の好きにしたらいい。
わしが一生をかけて得たもの、その全てを聖羅に…これが、このじじい“最後の願い”じゃ。」


