堕天使と呼ばれる女


「オレ、何か悪いことしたかなぁ…」

院長室へ向かう廊下を歩きながら、直行はかなり意気消沈していた。

院長に呼び出される事なんて、普通は有り得ない事なのだ。


確かに、ここ最近の研究は停滞気味だった。

寿命に影響を及ぼす遺伝子は少しずつ特定出来ていたが、実はその遺伝子もいくつかの種類がある事が判明し、研究が複雑化してきていたのだ。

研究が進むというよりは、煩雑で膨大な資料に追われるばかりだった。


ただ、直行には1つの大きな疑問があった。


研究資料は、全て病院からの提供であるということ。

その詳細を尋ねる事は、綾瀬総合病院での禁忌。

直行は、常にその疑問と戦いながら、謎の資料に忙殺されてきたのだ。


そんな事を考えながら歩いていると、あっという間に院長室前に到着してしまった。


1回大きく深呼吸してから、院長室の仰々しいドアをノックした。

「誰だね?」

中から、重厚感ある声が返ってきた。

「渡辺です」

「あぁ、渡辺くんか。入りたまえ。」


少し和らいだような声のトーンで、中に入るよう促された。