「とりあえずは、名乗らずに済んで良かった…のかな?」
少女が走り去った後、ポツリと聖羅は呟いた。
「それにしても、入院日数が長いのに、あれだけ走れる体力があって…
それに加えて、同じように長期入院してた私に対して、何かを言おうとした…
これらを考えると、薬の被験者だと考えるのが、無難なのかな…」
「さて…
次は、薬の被験者をどうやって調べるか…って事だね。」
そう呟いた時、頭の中に言葉が食い込んで来た。
【おい!!聖羅!
どこで何やってるんだよ!?】
「あぁ…台無し…」
【黙って!!
すぐに行くから!】
聖羅は軽くぼやきながら、頭に直接聞こえたその声に対して、返事をした。
そして、聖羅は静かに病院の外へ向かう…
聖羅やユリちゃんの秘密の場所から、病院の正面入り口を出ようとした瞬間…
【ずいぶんと珍しい人が来たものですね…】
聖羅の脳裏にガツンと声が響く。それと同時に聖羅は背筋が凍るのを感じた。
この声はっ!!
【おや?無言ですか!?
何をしに来られたでしょうかね、聖羅さん?】
病院を出ようとした聖羅の足は、病院の正面玄関を目前にして、完全に凍り付いていた。
【気配を出来るだけ消していたのに、よくお気づきになられましたね…
水谷理事長。】
そう返した聖羅に、水谷理事長は静かに答える。
【あぁ…今日は珍しく院内勤務でね。
ちょっと、院内に不穏な気配は無いか、能力を使って探っていたんだよ。
でも、まさか君が居ようとはね…】
クスクスという不気味な笑い声も一緒に聞こえてくる。
【企んでいるなんて、滅相も無い!
たまたま、近くに来ただけですよ。
見つかるとは思いませんでした。】
【…まあ、そういう事にしておこうかな。
また、いつでも遊びにおいで。
歓迎するよ。】
【丁重にお断りしますよ。】
水谷理事長の嫌みな申し出に対し、明るく返した聖羅は、そこで水谷理事長との会話を遮断した。


