「あれ?和葉ちゃん?」

「こんにちは」


目の前の人に軽く頭を下げれば驚いた様に目を丸められる。


「こんにちはって、どうした?
あー白石に用事だよな?今呼んで……」

「いえ、今日はお兄さんに用事があって来ました」


私の目に映るのは正輝によく似た人。
私自身も面識がある、正輝のお兄さんだ。

学校を飛び出して向かったのが、お兄ちゃんと正輝のお兄さんが勤める会社だった。
約束もしていなかったので、入口の所で待ち続けたんだ。


「俺に?」

「はい。少しお時間をいただけませんか?
……よろしくお願いします」


深く頭を下げてお兄さんに頼み込む。
会社の前だと言う事もあってお兄さんは慌てた様に私の腕を掴んだ。


「分かったからとりあえず移動しよ」


無理やり引っ張られて連れて来られたのは会社の近くにあった公園だった。
誰もいない静かな空間。
置いてあったベンチに2人で並んで座る。


「どうしたの急に」

「……お話があって」

「話?」


お兄さんは首を傾げながら私を見ていた。
それに応える様に小さく、でもハッキリと口を開く。


「正輝の事です」

「……」


お兄さんは顔色を変えずに私を見つめた。
様子を伺うみたいに。
その目がどこか怖かった。
前にお兄さんの裏の顔を見た時と同じくらい胸が痛くなる。


「あの……」

「正輝が何かしたかな?君に迷惑を掛けた?
アイツはちょっと色々あって……心配してたんだ」


眉を下げて申し訳なさそうな顔をするお兄さん。
何処からどう見ても、弟の事を心配するいいお兄さんだった。

でも、私は騙されない。
その表の顔なんかに惑わされないんだから。