目が合って、慌ててペコッと頭を下げる。

先生もこちらと花恋ちゃんに頭を下げてから、また弘也の方を向いた。

「やあ、弘也くん。調子はどうかな?」

弘也の顔色や表情をうかがいながら尋ねる先生に、弘也は思い切り笑みを浮かべる。

「いいですよ、外に出れないのが悔しいくらいです」

遠回しに外に出せと言っているのを悟ったのか、先生はそうかいと笑う。

俺も花恋ちゃんも、ムッとする弘也に思わず吹き出した。

「んー、じゃあ、少し提案があるんだけど」

先生はそう言って、ベッドサイドに置かれた車椅子を見やった。

その隣の机に置かれたウィッグが目に入る。

…弘也は今は帽子をかぶることが多かった。

抗がん剤の副作用として髪が抜けてしまうからだ。

触れてほしくないだろうから一切触れてこなかったが、だいぶ前から抜けていた。

本人は強がっていて全く悲しむ素振りがないが、ショックであることに変わりはないだろう。

ただそのため、外出の時はいつもウィッグを被っているのだ。

帽子でいいと思うのだが、弘也なりのこだわりらしい。