取り出したスマホをタップして、開いたメールアドレスを見つめる。

『Daisuke.T』の『T』は、轟の『T』なんだろうか。



(どっちなの…)


目線を上げて彷徨わせる。
ぼぅ…としてたもんだから近づいてくる人影に気づかなかった。




「ホタル」


声をかけられてそっちを見上げた。
目の前にいるのは、パリッとしたスーツを着てる男性。



(誰……?)


一瞬誰かわからなかった。
でも、目を見た瞬間気づいてーー



「た、谷口!…さん?」


辛うじてさん付け。
副社長かもしれないんだから丁寧にしておかないと。



「そう」


言葉短く答えた彼を無言のまま見つめてしまった。

髪の毛が垂れ下がってる。
いつもみたいなツンツン頭じゃない。
しかも、サングラスじゃなくて普通のメガネを掛けてる。



「あの……」


どうしてそんな格好で!?

…と言うより、どこかで会わなかった!?



「そんなにマジマジ見んなよ」


言葉遣いはいつも通りの谷口だ。
でも、話し方が怒ってるような時もあるって真綾が言ってた。



「だって、格好が……」


力が抜けていきそうになった。
その場に倒れ込みそう。


「仕方ねぇだろ。仕事の合間を縫ってきたんだから」


「仕事…?」


どんな…と聞いてもいいだろうか。
この人はやっぱり副社長ではないのか。




「…行こうか」