右ハンドルだから国産車だと思う。
けど、内装が木目調なんて珍しくない?
しかもシートのクッションがふわふわしてて、やたら気持ちいいんだけど……。


(この人ってやっぱヤバい関係の人なんじゃないの!?)


だったら渡すべき物渡して、さっさと逃げだしたい。



「あ、あの……」


「何だ」


サングラスの隙間から見える目が怖い。


「この間借りてたこれ、持ってきました。ビーチサンダル」


「ああ、君となんだ。いらなかったのに」


チラッとだけ見てすぐに前を向く。


「で、でも、貴方のですから返します!それから、今後なんですけど……」


ドキドキする。
たった一言、「誘わないで」を言うだけなのに。


「あの、さささ、誘われる、と、ここ、困るので……」



あーー、やっぱり吃ったぁーー。
仮装した意味ないーー。



「も、もも、もうささ、誘わないで……くだ…下さい」


なんとか言いきった。
エラい!私!!



ぎゅっと握ってた両手が汗でビッショリ。
相手の男の反応はどうだろうと目を向けてみると。



「チッ、赤信号か」


(うわーん!聞いてないしー!)


一世一代の勇気がムダってこと!?
これって、あっていい事実!?


「ね、ねぇ、きき、聞いてた!?」


辿々しいけど頑張ってるんだよ。私。



「あー?なんだって?」


そこで聞き直すの!?
試すのも止してよ。