見てみろ…と周りを指差す。
金魚屋のパラソルの下には、私とヤンキー男以外いない。


「あんたがブツブツ言いながら怖い顔してるから、客が寄ってこねぇんだ。完全な営業妨害だろーが、これは」


「あんたが誘ったからでしょ!私はほっといてと言ったのに!」

「だから、悪かったって言ってるだろ。何なら埋め合わせでもしてやろうか?」


スクッと立ち上がる。

もしかして殴り掛かってきたらどうしようかと、この時やっと恐怖を覚えた。



「ほら、立ってついて来い!」


ドスを効かせる男にビクつく。
見定めるように私を見つめ返した人は、知らん顔をして歩き始めた。


アロハシャツの背中には夕焼けのシルエットが描かれていた。

黒い椰子の木を背景にオレンジ色の夕陽が広がってる。

表面とは違ってもの寂しい雰囲気の背中を見つめながら、シュン…と気持ちが萎んだ。



「何してんだ!」


振り返った男が怒鳴った。
ギクッとする私を睨み、「さっさと来い!」と付け足す。


ヨロヨロしながら立ち上がった。
掌に乗っていた5千円札を握りしめ、アロハシャツの男に近づいた。



「羅門(らもん)」


側にいた水風船屋の男に声をかけた。
水風船屋の男性は、麦わら帽子を上げて聞いた。


「何だ、大輔(だいすけ)」


大輔という名前なのか…とヤンキー風な男の顔を見た。