ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に

大事に育てたら自分にも幸せがやって来るような錯覚が起こった。
昔話ではいつも、掬ったり拾ったりした者に福がくるから。


「一度だけでいいから…幸せに浸ってみたかったの……」


愛されないならせめて、愛せるものが欲しかった。
恋い焦がれる存在にはならなくても、愛しい存在にはなり得る。


「金魚掬ったくらいで幸せに浸れるのか?」


振り返って聞く男の顔を見た。
どうして今日はまたヤンキーみたいな風貌なんだろう。


「……そうなりたかったの」


これは私の希望。
貴方には今夜フラれるから。
私はまた一人になるから。


目線を下げて俯いた。
視界の中に映る参道の石畳は規則正しく並んでる。



「そんなに金魚が欲しいのか?」


頭の上から声がする。


「ううん…」


私が欲しいのはラブだ。


無言になった私に溜息を吐き、谷口は歩き始める。

焼きとうもろこし屋の香りを嗅ぎながら店の前を通り過ぎ、涼しげな音が聞こえる店の前で立ち止まった。



「羅門」


声に弾かれて前を見た。
視線の先には、『風鈴や』と書かれた看板がある。


「大輔」


あのレストランのシェフが店番をしてる。


「風鈴くれよ」


金魚の絵柄が描かれたモノを指差してる。


「女にプレゼントか?」


チラッとこっちを見た。


「あれ…?」


マズい。気づいた!?


「君は……」


ポカンとした顔してる。