「今日の午前はトレーニングで、午後からはプール、ウォーミングアップしたらすぐに計測に移る、以上だ。
何か連絡のあるヤツはいるか?」


今日一日の連絡を終わると、岩島先輩はいつも『他に連絡のあるヤツは』と聞く、いつもなら『ないようなら、練習に入ろう、解散』となる。

けど、今日は違う。


「はい!」


公香先輩がすっと右手を上げて、一歩前に出た。


「今日セレナーデ来る人は、練習終わったら、各自先に出発してちょうだい。
割と大人数だし、固まって動くとたぶん邪魔だからね、よろしく」


公香先輩は、目線で連絡が終わったことを岩島先輩に伝えると、また一歩下がった。


「じゃあ練習に移ろう、解散」



各々が散っていくと、マネージャーも仕事を始める。

マネージャーの長は、意外にも皐月先輩。

おっとりしているようで、いざという時に鋭い人なんだとこの数日で知った。


「えーっと、午前はまず昨日のタオルの洗濯からね。
タオルの取り込みはいつも通り、練習の終わり頃だから、みんな忘れないように」

「「「はい」」」

「洗濯し終わるのを待ってるうちに、スクイズ補充。
あと、顔色悪い選手とか、動きの悪い子を見つけたら、大事になる前に声かけてね」

「「「はい」」」

「じゃあ、今日はお楽しみもあることだし。一日頑張りましょ!」

「「「はい!」」」




筋トレやら何やらトレーニングに励む選手たちを横目に、せっせと洗濯し終わったタオルを隣の棟の屋上に運んでいた。

部室や実験室、音楽室などがある特別棟の屋上には、私たちの使うプールがあるけど、自教室や教務室のある教室棟の屋上は、普段、生徒の立ち入りは禁じられている。

が、吹奏楽部が練習に使ったり、私たちがタオルを干したりと、理由があれば使える。


「日和ちゃん、ごめんなさい、後の分頼んでもいい?
私、先生に呼ばれてるみたいで」

「あ、大丈夫ですよ!」

「ありがとう、助かるわ」


残り枚数を確認したら、あと5枚ほど。

案外すぐに終わりそう。

ちょっとだけホッとしてから、次のタオルに手を掛けたとき、

キィー……――と、屋上の扉が開く音がした。

皐月先輩が戻ってきたのかと思っていたら、聞こえたのは、低い声だった。


「あ、近藤?」

「えっ、……はい」


顔を上げれば、そこには岩島先輩。

呼ばれたから返事をしたけど…なんか、驚いてる?


「どうかしました?」


思ったことをそのまま問うと、先輩の目が少しだけ泳いだ。


「いや、一人でストレッチしたいと思って場所を探してたんだが…」

「あっ、あと少しで終わるので、ちょっとだけ待っててもらえますか?」


急いでタオルを取ると、声に制された。


「いや、いい。別の場所を探す」


背中を向け去ろうとする先輩に、何故か、寂しさを覚えてしまって、気がつけば引き止めていた。