「新入生代表挨拶、坂木葵(さかき あおい)」

「はい!」

校長先生から名前を呼ばれ、壇上に上がる。
うっすらとそよ風に混ざる桜の匂いをいっぱいに吸い込んだ。






「すごーい!葵首席だったんだね!」

教室に戻ると、私の周りには同じ中学校の友達が沢山集まった。
新しい制服、新しい校舎、新しい人…
これから高校生活が始まる。


「おい、席つけ」

担任の吉岡先生が入ってきた。
坊主頭で切れ長の目、無精髭と…怖そうな感じ。
ピッとみんなの背筋が伸びた。
後ろの席で良かったぁ…。

吉岡先生の話は長い上に進路の話まで始めたから、とても疲れた。


休み時間、中学からの親友である濱田 優香(ハマダ ユウカ)が目を輝かせながら部活の話を始めた。

「葵は美術部でしょ?」

「ううん、野球部のマネージャーやろうと思ってて」

「え?!せっかくあんなに絵うまいのにー!勿体無いよー」

美術だって好きだけど、やりたいことがある。


あの日、
球場で見た光景はしっかりと脳裏に焼きついている。
たくさん汗かいて、泥まみれになっているのに、全てが綺麗で、鳥肌が止まらなくて、泣きそうになって…、

野球が好き。
私、野球部のマネージャーがやりたい。