体力が回復するまで、という期限付きで青年アキクニは少女カガミの館に滞在する事になった。
 当初はぼんやりするたびに黒い靄に包まれていたアキクニも、体力が回復するにつれてカガミと言葉を交わし笑うようになってきた。

 天上の神々に国を奪われたという同じ境遇が、二人の間で共感を生んだのだろう。
 カガミはアキクニが療養中の部屋へ足繁く通い、日を追うごとに二人で過ごす時間が長くなっていった。
 そして自分の事をあまり語ろうとはしなかったアキクニが、カガミには地上の国の事を話すようになっていた。

「地上は今、どんな季節ですか?」
「今は冬だ。もうじき春になる頃だ」

 地底の国には昼も夜もなく、季節の移ろいもない。カガミが地上で移ろう季節を目にしたのは随分昔のことだ。
 アキクニは遠い目をして懐かしむように口元に薄い笑みを浮かべた。

「風が穏やかになってくると梅の花がほころぶ。俺の国には梅の木がたくさんあるのだ。満開になると辺りに甘酸っぱい香りが漂った。あの景色を眺める事は二度と適わぬのかな」

 寂しそうに視線を落とすアキクニに、かける言葉が見つからずカガミも俯いた。

 亡者を導く日課を果たすため、カガミがアキクニの部屋を出て行こうとした時、カガミの父がやってきた。
 地底国の王は厳しい表情でアキクニを見据えながら告げた。

「天上より通達があった。アキクニツカサノカミを見つけた者は、捕らえて身柄を引き渡せと」