「アキクニ様」

 カガミが名を呼ぶと、アキクニは小さくうめきながら身体を起こした。
 そして目の前で微笑むカガミを思い切り抱きしめた。――が。

 抱きしめたと思ったアキクニの腕はカガミの身体を素通りし、自分の元に戻ってきた。呆気にとられて、アキクニは再びカガミに手を伸ばす。
 頬に触れようとした己の手は、やはりカガミの身体を突き抜けた。

「……これは、いったいどうした事だ」
「負の感情を押し出す際に、ご自身の力も全て押し出してしまったのでしょう。あなたはもう、わたくしと同じ存在ではありません。命に限りのある人になったのです。いずれ、この姿も見えなくなると思います」
「そうか……」

 悲痛な面持ちで俯いたアキクニに、カガミは明るく諭した。

「よい事ではないですか。あなたはあの黒い感情から解放され、人となっては天上に追われる事もないでしょう」
「俺はそれでいい。だが、そなたはどうする? もう地底には帰れないのであろう?」
「わたくしはここで、あの封印を守ります」
「それでは俺の気が済まぬ。そなたひとりに面倒を押しつけて自分はのうのうと生きていくなど」
「では、ひとつお願いがございます。わたくしは五十年に一度、力が弱まるのです。その時だけはあなたとあなたの子孫があの封印を守って頂けますか?」