昼も夜もない薄闇の中、鈴の音がリンと辺りに反響する。

 ここは現世(うつしよ)と黄泉との境界にある地底の国。
 岩壁に自生したヒカリゴケがぼんやりと燐光を放っているだけで地上の光は届かない。
 草木もなく岩や小石が転がる荒涼とした空間に、ヒカリゴケをより所とする光虫が淡い光をたなびかせてふわふわと無数に舞っていた。

 そして地底国には中央を貫いて流れる緩やかな大河があった。その川辺を白い着物に緋袴の少女が鈴を振り鳴らしながら、ゆっくりと歩いている。
 濡れ羽のごとき艶やかな黒髪を後ろに束ね、意志の強そうな瞳は川面と川の流れ行く先を見据えていた。

 地上から流れ込み黄泉へと続いているこの川には、時折黄泉の国から亡者が迷い込む。
 少女の鳴らす鈴の音は、亡者にここが黄泉の国ではないことを知らせるためのものだ。鈴の音に気付いた亡者は、川を下って黄泉の国に帰っていく。
 日に二回鈴を鳴らして川岸を歩くのが、少女の日課となっていた。
 
 闇の中にしか身の置き所のない者が、この国を住み処としている。少女の父はその者たちを束ね、この国を治める王だった。