開場時間が迫る会場前。
チケットを手にした人たちが順番に並んでいく。
そんな中、貴姫さんがゆっくりと言葉を開いた。
「今日もメンバーに感謝して精一杯、暖めあいましょう。
皆、中ではバラバラたけど、このチームの人間である仲間だということは忘れないで。
Ansyalのメンバーに恥をかかせるなんてことのないように。
ファン一人一人がメンバーの看板を背負ってるのを自覚して楽しんでください。
最後に、会場内、会場周辺ゴミが散乱してると思うから目に付いたものは、
そのままにしないでちゃんと拾ってゴミ箱に捨ててください。
里桜奈、楓我。
今日は精一杯、楽しんでおいで。
里桜奈のAnsyalネーム決まったら連絡ください。」
Ansyalネーム。
LIVEネーム。
敬愛するメンバーの本名の名前から一文字頂いて名づけるファンの通り名。
紗雪たちも背中に背負ってた羽を片付けて、
鞄に突っ込むと荷物を持って移動していく。
それぞれのチケット番号の列に並んで会場入り。
会場内でドリンク交換をして座席のないフロアーの中、
各々がその瞬間を待ち望んでいた。
グッズ売り場の前も大盛況。
会場内に流れる音がゆっくりと大きくなっていく。
メンバーが演奏に使う機材の音が聞こえる。
灯りの消えたステージにぼんやり浮かぶ人影。
忙しなく動いて作業を続けた人が消えたとき、
その瞬間は歓喜と共に始まった。
幻想的な雰囲気をかもしだす音楽。
オープニングのその音楽は……、
両サイドの小さなモニターに映し出された天(そら)を感じさせる。
ステージの頭上から優しい光が降り注ぐ。
光に導かれて登場するのはドラムの憲(のり)さん。
前が見えなくなるほどの歓声に迎えられて登場。
見えない私はあっち、こっちにと……顔だけを向ける。
『祈~』
ギターの祈さん。
『託実~』
ベースの託実さん。
『Taka~』
もう一人のギターTakaさん。
Takaさんが見たいよ。
見たくてキョロキョロする私に隣の楓我さんが、
見える位置に私を誘導してくれる。
初めて……見たTaka。
紫の髪の毛をおろして淑やかな仕草で、
登場するとステージ中央で、ギターフレーズを解き放つ。
その音色が、私の心の中を貫くように飛び込んできて
すでに放心状態。
初めて逢えた……Takaさん。
暖かい雫が頬をゆっくりと伝い落ちる。
この場所に居るんだ……。
「十夜っ!!」
Takaさんが自分の場所に行った後に続いたのは、
ボーカルの十夜さん。
メンバー全員が揃い終わった後、会場内に音の渦が湧き上がる。



