それはよくある光景だった。



「あ、ごめん」

「ううん、気にしないで」



隣の席の小川くんは左利きだ。

授業中、ノートを取っていると、たまにお互いの利き腕がぶつかることがある。
その度に小川くんはごめん、と小声で謝り、静かに机を右にずらして、ぶつからないように距離を取る。

そんな小川くんにわたしは恋をしている。

きっかけは席替えで初めて隣の席になったとき、"あ、左利きなんだ"って、それがちょっと珍しくて、それから意識するようになった。

会話らしい会話なんてしたことはなかったけれど、左手で器用にノートを取る姿とか、ぶつかったときの肌の感触とか、謝るときの透き通った声とか。

挙げればキリがないんだけれど、小川くんの全てが好きだなぁ、と思った。