あたしは坂井君の目を見つめながら、今朝の夢のことを一生懸命に説明した。

 お兄さんの親友らしい人が現れる夢。ふたりの間の諍い。

 音のない夢の中で伝えたい言葉を伝えられずに、お兄さんが身を焼くようなもどかしさを感じていること。

 そう熱心に語るあたしの話を、坂井君は真剣な顔をして聞き入っている。

「伝えたいのに、伝えられない言葉、か……。どこかの学校内での出来事?」

「うん」

「それなら心当たりがある。兄貴、中学の頃に大親友だった三津谷さんって友だちと、卒業間近になってなぜか急に疎遠になったんだ」

「やっぱりそうだったんだ。夢の中の様子だと、あのまま絶交になってもおかしくないほどの勢いだったもん」

「そんなひどい大喧嘩してたのか?」

「大喧嘩っていうか……お兄さんの方は、とにかくショックを受けていたみたい」

「兄貴、喧嘩別れしたままってのが心残りだったのかもな。三津谷さんとはすげえ仲良かったし。仲たがいの内容は全然わかんねえの?」

「音がまったく聞こえないから、詳しい事情はどうしてもわかんない」

「三津谷さんと連絡つけられると思うから、角膜移植とか心残り云々て部分は伏せといて、会って話をしてみるのがいいかもな」

 トントン拍子に話が進んでいく。

 まずは坂井君に納得してもらうことだけを目標に考えていたのに、お兄さんの裏事情や、これからの具体策まで提示してもらえてしまった。