あたしの左目には、ドナーの記憶が刻み込まれてしまったってこと?

 だとしたらこれからあたしは一生、あたしが臓器を奪ってしまった人の生々しい記憶を、夢に見続けていかなきゃいけないの?

 しかもその人が生前、心から大切に思っていただろう家族と、これから毎日同じ学校に通うことになるの?

 これって、もしかして、天罰?

 自分の幸せのために、他人を犠牲にしてしまった罪を背負う覚悟はしていたけれど、まさかこんな形で罰を受けるだなんて思いもしなかった。

 どうしよう。どうしよう。どうしよう……。

 しゃがみ込んだまま、答えのない苦悩に翻弄されるあたしの耳には、ずっと風の音が聞こえている。

 春特有の強い風が、手術のために短く切り揃えた髪を乱して、スカートの裾を落ち着きなく揺らめかせた。

 まるで空気が暴れて叫んでいるような風の音を聞きながら、あたしは行き場のない不安と動揺する心を、必死になって押さえつけようとしていた。