目の調子はずっと順調で、退院してから週一回だった通院が、二週に一回になったばかり。

 移植後に拒絶反応が起きたせいで再移植を余儀なくされたり、せっかく移植した角膜がすぐ白濁してしまう人もいることを思えば、自分は幸運なんだと思う。

 ……幸運……か。

 あたしはフッと溜め息を吐いて立ち上がり、朝食を食べるために部屋を出て階段を降りた。

「翠おはよう。目の調子はどう?」

「おはよう。今朝も問題なし。調子いいよ」

 毎朝の挨拶でお母さんから必ず聞かれる目の調子の良し悪しも、それに対するあたしの答えも、いつも通り。

 トースターにトーストを放り込んで時間を調節しながら、お父さんやおじいちゃんやおばあちゃんにも、笑顔で挨拶をする。

「おっはよー」

「翠、おはようさん」

「おはよう翠ちゃん。今朝は早起きだねぇ」

 流し台に並んで立って、今日のお弁当のおかずの内容を相談し合う、お母さんとおばあちゃん。

 テレビのニュース番組にツッコミを入れるおじいちゃんと、新聞を読みながら適当に相づちを打つお父さん。

 平穏な、いつも通りの日常の光景が、あたしの目に映っている。

 昨夜の出来事が、まるで嘘だったかのように……。