ヒーロー!?



晴義side



「おい!!来てやったぞ!!クソ女ぁ!!」



「あははっ。幹部の一人がわざわざ出てきてくれるなんて歓迎されてるのかなー!ありがと〜」



ちっ。余裕ぶっこきやがってマジムカつかせやがる。




「テメェもここで終わりだ。おれはこんなクズ共とは格が違うんだよ。テメェみたいなクソ女なんて一発で終いだ」



「ふぅ〜ん」



唇を尖らせたクソ女は、顎を指で掴み腕を肘の下において考えるような仕草をとると、手のひらをポンっと叩いた。



何か思いついたようだ。




「じゃぁさ!もし一発で私が倒せなかったら貴方…君?うーむ…お主?」



「晴義様だ!佐藤晴義!!」



「さとう?砂糖?シュガー君かぁ!」



「いや、ちげぇし!」



「それでそれで!シュガー君が一発で私を倒せなかったらシュガー君は私の言うことをなんでもひとつ聞く!ただし、私がこのゲームで勝ったらの話だけどねぇ〜!もし負けたらこの願いをひとつ聞くというのは無効化になりまぁす!」




「あぁ!?おれに勝つ気でいんのかテメェクソ女!」



すると、「えっ?ダメだった?」という素っ頓狂な事をクソ女はさも当たり前のように言って見せた。



「当たり前だ!テメェ何様のつもりだよ!」



「メグル様ならぬヒーロー様!」



「ざけんな!」



「それにしてもシュガー君よ」



「だからシュガーじゃねぇよ!」



「シュガー君は随分と自信があるんだね?私みたいに」



もう、シュガーの事は諦めよう。どうやらこのクソ女にはおれは佐藤晴義=さとう=砂糖=シュガーで決定付けられてしまったようだし。




「当たり前だ。なんてたって、俺はこの学校ベストファイブの一人。龍也の仲間である故に敗北なんての似合わねぇ。つうか俺が許さない」



俺はベストファイブになるために、そして龍也の幼馴染でもカッコ悪くないように昔の弱い俺を捨てた。
家族、勉強、将来?どうでもいい。
力が必要なんだ。力さえあれば、全てにおいて勝ることができる。
そうすれば誰も文句を言うものもいないし、楯つくものいない。
だが反対に、常に皆の恐怖の対象者になり続ければならなない必要がある。



こんなクソ女一人に手こずってなんていられない。



だが、俺の心の内を知ってかしらずか、ニヤリと口角を上げたクソ女は「下らない」。ただ、一言そう言った。



その時、フードの中から目が少しだけ覗いたような気がした。
その一瞬。目があった一瞬に全てを見透かされたような気がした。
そんなに鋭く、そして真っ直ぐな目をしていたんだ、このクソ女は。



「…まぁ。いいや〜!さっさと、かかって来なよ?」



指でクイクイと挑発され、俺は思うがままに、そして力の限りにクソ女の頰目掛けて拳を振りかざした。



だが、俺の拳は当たるどころか見事に避けられ、挙句に腕を掴まれて俺の勢いをいいことにそのまま後ろに投げつけた。



顔面から地面に向かって顔がぶち当たり、続いて身体にも衝撃が走った。鼻から鼻血が流れ、顔面はヒリヒリとする。



「一発で、決まらなかったねぇ〜?」



その声に顔を上げると、さっきの勢いでかフードの外れた顔がそこには晒されていた。どうやら一本で括られていた長い黒髪。



目は三日月のような形になっているのは、笑っているからだろう。だけど、ワインレッド色の瞳はこれまで見たことがないくらいに綺麗だった。



フードをしていてでも分かったが、ほんのりと赤くなった形のいい唇は、日差しに照らされて少しだけ光っている。



歪は笑みでも、その顔が充分過ぎるほどに整っていることが分かった。
そして、これは俺とそして龍也だけしかわからないことだが、このクソ女が少しだけ…いや、そんな筈はないだろう。
きっと今の俺は意識が少し朦朧としているからだ。
頭を打ったせいだ。きっとそうなんだ。
俺はそんなこと信じたくなどないから。絶対に、そんなこと…あり得ない。



「お休み、シュガー君」



そのクソ女の言葉と、腹にありえないくらいの重い蹴りを食らったせいで、俺の意識は途絶えた。



晴義side end…