「よーい、ドーン!!!!!」



外にいるあいつとは結構な距離があるはずだというのに、その声はここまでしっかりと聞こえてきた。近くにいるであろう奴らはさぞがし耳が痛いことであろう。



その掛け声と共に、勝負は始まった。



絶対に負けられない、ゲームが。



遡るのは昨日のこと。あの後ゲームをするにあたっての日時が一方的に決められた。次の日は土曜日だったので、ゲームが行われるのは月曜日。ゆっくりと身体を休めてくるようにと変なことをあの女は口にした。



この学校には授業と言える授業がないから別にいいが、あの女が体育館に現れてからというもの、何もかもをあの女に全て決められているような気がするのは気のせいだろうか。



そういえば、他にも日時以外に、決められたことがあった。またそれもあの女が勝手に決めたことだが。



勝ったら負けたらどうなるかということだ。だけど、自分が決めたにしてはあいつが負けたら酷すぎるものだと俺は思った。



それとも、やはりあの女は自分の勝ちを見越してそう言ったのか。



あの女が負けたら自分は全校生徒、及びこの町に住むもの全員の前で全裸になり、晒し者にされてもいいと言ったのだ。



そして、あの女が勝ったらこの学校の全ての権限をあの女に渡す。つまりは俺の地位を手渡すことになるということだろう。



「お…い…おいおい…やべぇよ、これ」



「ん、どうした」



今まで外をずっと見ていた静人が焦った声を出した。



「外が…外にいた奴が、もう全員ぶっ倒れてる」



そう言われて外を見ると、さっき確認した時外にいた奴らは全員倒れていた。



「最初、何が起こったか分からなかった。始まった瞬間に女は姿を消して、てっきり何処かに向かって逃げたのかと思ったら、次々と不良どもが倒れていったんだからな…」



「…いや、でもそれも可笑しくないかもしれない。そもそも、あそこにいた奴らは雑魚の中でも雑魚の奴らだ。一人一人で戦ったら話は別だ。それに、あの女は俺の一撃に気絶するどころか笑って立ったやつだ。武道の心得でもあったんだろう。倒せても普通だろう」



そうだと、俺は願いたい。そもそも、俺がこんな言い訳みたいなのを口にして、自分に言い聞かせようとするなんて、自分で言っててだが、俺らしくねぇ。



「きっと、あの女がなんか武器でも使ってんだろ!?絶対そうだ!素手で女なんかがおとこにかてるんけねえっつーの!あの雑魚の中の雑魚はわかんねぇがな」



確かに、晴義の言うことも一理ある。外にいた奴らは雑魚の中の雑魚といっても、結構な人数だったはずだ。それをいくら武道の心得があるかもしれないからといって、素手でなんて全員倒せるかどうかは怪しい。武器を使った可能性も感じられる。



だが、俺達の想定範囲内をぶち破って、その一言は言い放たれた。



「よっわいなぁー!こんなんじゃ私の勝ち決定だねー!!」



そのふざけた一言は、晴義に火をつけたようだった。
晴義は短気なだけあって、すぐにキレやすいし、怒りっぽい。
だけど、青筋を浮かべ、王子のように美しい顔が般若のような恐ろしい顔に変わっている一面は見たことがなかった。


マジでキレたのは、本当に初めて見る。



俺達の五人の中で、一番喧嘩好な晴義だが、相手にマジでキレてるなんてことはなかった。
五人の集まりが大好きで俺のことを一番尊敬していた晴義だが、俺たちや自分とまだ戦ってもないのに、しかも女なのにそんなことを言われたのが癇に障ったのだろう。