体育館に行くと、少しは集まっていたらしい不良達。
俺達を見て吃驚している。
まぁ、ここに来たのはなぜ呼び出されたのか理由も知るためだが…他にもある。
「あの糞野郎、俺達に口も聞けないようボコボコにしてやる!!」
晴義が言った事をまさに実行するためでもある。というか、本当にその顔でそんな言葉を吐かれるのは初対面の奴ならば耳を疑うだろうが、俺も晴義を除く三人も今は慣れた者だ。
そういえば、俺たちが来たのはいいが、ステージには校長の姿など見当たらない。
もしかしたら、隠れているのかもしれない。
体育館に全校生徒が集まってきたというところで、校長はやっと出てきた。
俺たちに顔を背けるようにして壇上に来たが、全校生徒に睨まれて足が震えているのが良く分かる。
「た、体育館に集まってもらったのは…て、てて転校生をし、紹介するためで、ですぅ!」
声を絞り出しながら、集まった理由を簡潔に言う校長。そういうしかないのだろうがたったそれだけの理由で俺たちをここに集めたというのか。
ふざけている。
転校生を紹介するためだけに俺達を集めたなんて。その転校生はどれだけの権力者なんだ。
どこかの組員のやつか?
それとも暴走族の総長?
金持ちのボンボンが来るって可能性もあり得る。力の他に、支配をしようと思えば金でだってできるのだから。
どんな奴が一体、出てくるっていうんだ…?
「メ、メグルさん!じ、自己紹介を…ぉねがいし、します!」
次の瞬間に、俺の…俺達の張り詰めた空気は一気に砕けた。
「は〜い!」
聞こえた声はごつい威圧する声でもましてや男特有の低い声でもなく…ソプラノの高く心地いい声。
そして、でて来たやつは…
紺色のパーカを着ていて華奢な体をした、パーカーを着ていても分かる性別…女だった。
「みんなおっはよう〜!私はここに転校してきた日ノ丸メグルちゃんでーす!私は『ヒーロー』です!突然ですがぁ、ここのボスを倒してメグルちゃんの支配下に置いちゃいま〜す!」
あの女の言った事が晴義の気にさわったらしく、今にでも殴り込みそうな勢いで静人と皐月に止められている。それにしても、なんで馬鹿げた名前なんだ。そして、今言った言葉。完全に俺たちをおちょくっている。
「俺が行く」
「何言ってんだよ龍也!お前が行くまでもねぇ!あんなクソ女には俺で充分だ!つか俺が行く!!」
「お前はやめとけ、バカよし」
「ここは龍也に任せよ〜?」
「そうだよ晴義。いずみんもしずりんもこう言ってるしー」
「…ちっ、わぁったよ」
俺はステージに向かって歩いていく。体育館内はいやに静かで、俺の足音が妙に大きく響いた。
校長は俺が来るのを見て即逃げようとしていたが、女に首根っこ掴まれて、何か耳元で囁かれたらしく、その場に半泣きになりながらしゃがみ込んでいた。
「おい」
「はーい?」
「ここのボスだ」
「本当ですかぁ!なら、私と勝負
し…ゔっ…」
俺は女の首を掴んで上にあげた。女の足は地についていなく、フードが深く被られているため、顔の様子は伺えないが、苦しんでいるということは充分に分かる。
「調子のってんじゃねぇよ」
「うぅ…ゔっ…」
ヤバそうに唸ったところで、胸倉を掴み上げたまま、力任せに地面に向かって叩きつけた。ダン!と音を立てて頭から身体を打った女はピクリとも動かなかった。
「意気がりやがって…」
倒れた女を冷たく見下ろし、ステージから降りようとした瞬間、笑い声をあげた奴がいた。
「くっ…ふはっはははっ!、あはははは!」
紛れもなく、その笑い声をあげたのは…意識を失ったはずのあの女。
倒れたはずの女に振り返ると、ゆらりと起き上がり、口角を上げて歪に微笑むと、口を開いた。
「…ねぇ、ボスさん。私と勝負を
しようよ?」
「…どんなだ」
「この学校の全校生徒と私一人で殴り合い。動けなくなるまでボコボコにしたらボスさんの勝ち。私は全校生徒さんの意識をなくすまでにしたらオーケー!条件はこれだけだよ。どうする?」
「何言ってんだよ!んなの受けるに決まってんだろ!」
ステージ下で今までの事の成り行きを見守っていた晴義は、やっぱりこの女がいけ好かないのか、迷いなく女からの挑発を間に受けている。
「おい、晴義。あんな女の子をボコボコにするなんて…お前、タチ悪いぞ」
まぁ、確かにその通りもその通りだが、俺は少し気がかりなことがある。女だからといって、今俺は手加減をした訳でもなかった。だから、正直あの女が気絶していなかった事にも驚いている。
「あの女が悪りぃんだろ!」
「俺、女に手をあげるのはちょっと気がひけるけど、あんまり調子に乗られると困るなー」
「僕はやだなぁ…。女の子には不利だし、可哀想だよ〜?」
「どうするの、龍也」
「受けな「もしかして…私に負けるのが怖いのかなぁ〜?あはっ、男のくせにだっさーい!」
「…龍也をバカにすんな!
クソ女!!」
晴義の暴言に対して、女は何も言わなかったが、尚も俺に対して言葉を続けた。
「もう一度聞くよ?この挑戦状…ゲームをボスさんは受ける?」
その問いに、俺はまだ迷っていた。何故か、この挑戦状という名のゲームの結果は目に見えているようで見えていないようなものだった。女が勝てるはずもない、だけれど俺は無性に胸騒ぎがするのだ。
俺の様子に痺れを切らしたか最後の一押しか、女はこう言った。
「ボスさんの地位は肩書きだけなの?それとも、本当にボスというだけの価値があるんならさ…
勝ってみろや」
最後の一言で答えは決まった。
俺の答えは…「受ける」。
俺もこれだけバカにされて、受けないわけにはいかない。
それに、どうせ俺らが勝つに決まってる。いや、どうせじゃない。絶対に俺らが勝つに決まっているんだ。勝たなければならないのだから。
だが、はやり不可解だ。あの一撃はここのそこそこ強いヤンキー達でも普通に倒れるのは当たり前だというのに…それに、しかも女…この女には、何かある。
俺たちがこの勝負を受けた時から
勝敗は決まっていた。
そう…俺たちの…ーーは。

