(……このままだと、まずいな。
すぐに見破られてしまう……)


さて、どうしたものか……。

絢嶺は笑みを顔面に張り付かせたまま、困ったように心の中でそう呟いた。

たった一人の、大切な家族である皐月のためだから。

正直、目の前の父がどうなろうと、絢嶺には知ったことではない。

むしろ、早く失脚してしまえ、とさえ思っている。

口汚く思えるだろうが、本心だ。

この親子関係に、愛情なんて欠片もない。

冷えきった繋がりだけだ。

せめてどうにか、皐月にはいいように事を運んでやりたい。

でも、繧霞という神は存外敏くあるため、少々のことなら容易く見破られてしまう。

絢嶺から皐月にしてやれることは、そう多くないだろう。


「絢嶺、皐月が戻ったならすぐに私の所へ来るように言っておけ」

「……わかりました」


これ以上は騙し通せない。

そう察した絢嶺は、素直に頷いた。

これ以上藪をつついてしまえば、とんでもないものを引き当ててしまいかねないから。

皐月のためを思うなら、これ以上は止めた方が身のためだろう。


「必ず伝えろ。
いいな、絢嶺」


繧霞はそう強く言い残し、部屋から出て行く。

繧霞の気配が遠くなるのを確認し、絢嶺は大きく息を吐いた。

頭を抱え、疲れたように目を伏せる。

そして、顔にかかる髪を煩わしげに掻き上げた。


「兄上、絶対に外出禁止令出されますよ……」


一体何やってるんですか、もう知りませんからね。

絢嶺は今ここにはいない皐月に、そう恨めしげに呟いた。

今回は絶対に許してはもらえないだろう。

繧霞の怒りの度合いから、そうだとわかる。

絢嶺は、再びため息を吐いた。