風を切るように走って行く、初めて乗るバイクの感覚は少し怖くて、不安を表すように自然と彼につかまる腕に力がこもる。



……私、なに、してるんだろ。

大丈夫なのかな。

知らない人に連れられるがまま、ついていったりして。



自分から言い出したこと。だけど心に一瞬込み上げる不安感は、自分の中に理性がきちんと残っている証だ。



けれど、目の前の彼から不思議と『怖い』という気持ちは感じられなくて、自分のこの直感を信じようとその背中に額を寄せた。



風圧によって、目の前の彼の茶色い髪はバサバサと揺れる。

その風を感じながら目を遠くへと向ければ、東京の夜景は徐々に遠ざかり、自分たちが東京から離れつつあることに気付いた。



行き先は、わからない。

だけどここじゃないどこかへ行ける解放感に身を任せて。



息を吸い込めば、かすかに海の香りが、体の中へ舞い込んだ。