「遅刻ね。待ったわよ」



一足先に学校のすぐ近くのカフェで紅茶を飲んでいた美優が、やって来たアイの姿を見て笑みを浮かべた。



学校が直ぐ近くで、また一面張りの窓の傍に座っているので店内にいた他の生徒やふと店の中を覗いた生徒は話題の二人の密会に遭遇出来て盛り上がっている。




……密会にしては不向きな人目に最も付きやすいところなのだが、寧ろ美優はそれが狙いだった。



アイとの噂に交じって都市伝説のように自分と悠斗がデキていると囁かれればいい、と。




美優の学校では文化祭に顔を出したりして一躍話題を集めた悠斗と美優の兄妹仲はとても有名な話だ。




まるでカップルかのように仲がいい。本当は付き合っているんではないか。禁断の恋に憧れる年頃の女子生徒にとっては格好のネタで、まことしやかに噂はジワジワ広がっているのだ。




しかし見目麗しい二人がそうなっていたら、という願望が殆どで実際はみんな心の中でそんな美味しい話はないと思っている。




現実は全く噂の通りだ。けれどあまりにもすんなりと浸透した噂であるが故に、真実味に欠けているのだ。




美優が気にしているのはそこ。悠斗と自分の噂がここまで広まったら全校生徒に広まってしまえと思っているのである。





悠斗のいない学校に悠斗を感じられて嬉しいだなんて魂胆だった。





そう、つまり面白がって流れた噂は否定していないだけで二人はただの友人である。




「ごめんねお待たせ。……本当美優といると注目の浴び方が変わるのが悔しいところだなぁ」




「周りは私は別にいいもの。それより聞いてくれる?さっき悠斗から元々帰宅が遅いのにあの家に行くって連絡が入ってて、もう怒り狂ってカップ投げ飛ばそうかと思ったわ」



「……いや本当美優は相変わらずだよね。一回あの家でやってみたらどう?案外すんなりと解決しそうだけど」





「……あの女のことだから『美優ちゃんはやっぱり私と離れてストレスが掛かってるのね。近くの学校へ転校しましょう』って言うでしょうね。アイとの写真も送るよう言われたから私が帰らない理由もアイと遊んでるから、何て誤魔化してるのよきっと。アイがイケメンで助かったのかしら」




「……お母さんも相変わらずだねぇ。でもお母さんの必死さは分からないこともないかな。僕だって理想のために全て偽って、偽りを墓まで持って行って真実にするつもりだからさ」





「……墓場までは無理なんじゃない?私に速攻でバレた人間には無理ね」





「……それは今は突かないでおこうかな。でも偽るのはあくまでも自分で、周りの事実も罪悪感なく捻じ曲げるのは尊敬に値するな」





「どっちもどっちじゃないかしら」




「……どうしてだい?」










「流石に性別を偽るのは無理があるからよ、愛」