階段をゆっくり上る足音と揺れる振動が止まったところで、美優はやっと上がれたかとほっと一息ついた。



思わず拓弥の声が聞こえた時には息を止めていた為悠斗の香りが混じる息を肺いっぱいに吸う。




悠斗は扉を開けて閉め、鍵もその勢いで掛けて美優をベッドの上に降ろした。




美優は痩せに痩せて体重は軽いのだが、あくまで基準は人が基準なので疲れるものは疲れた。



大きく伸びをした悠斗はふぅ、と息を吐いて声を潜めて「美優それ脱いで」と言った。



皺が付くことを懸念したのではなく寝苦しいだろうことを懸念したのだ。




悠斗も美優のせいでグシャグシャになった襟のシャツのボタンを外しながら、今日詰めたばかりのクローゼットからスウェットとティーシャツを取り出し美優に渡す。





美優はそれを受け取って、慣れた手つきでスーツを脱いでいく悠斗を横目に自分もバサリとワンピースを雑に脱いで悠斗のシャツを着た。




自分をジロジロ遠慮なく見てくる美優とは対照的に、悠斗はあまり美優の着替えを見ないようにワンピースを手に取って壁に掛かってあるハンガーにかけた。




それは悠斗がよくできた男だと言うことだ。




自分もゆったりとした服に着替え、もういいだろうと美優を見るとちゃんと着ていたので少し早いが電気を消しベッドへと向かう。




自分が脱ぎ散らかしたあのスーツは軽く畳んだだけだが、会社に着ていくスーツのほとんどはマンションに置いているのであれはクリーニングに出せばいい。




そう思いながらも布団にもぐりこんだ美優に続いて布団の中に入った悠斗はやっと息を吐いた。






「ふふふ、成功ね」





主導で悠斗の腕に頭を乗せ、こちらに向いた悠斗に手を回して擦り寄った。




この家で初めて機嫌のよさそうな美優の様子を見て悠斗は目を柔らかく細める。




どうやら殆ど立ち直れたようだし、明日はマンションで過ごすのだから暫くは美優のメンタルも落ち着いているだろう。




居心地が悪いどころか生きている気がしない、とすら言いたげだった昼の美優とは大違いだ。




それだけ一緒に寝れることが嬉しいらしい。




そんな美優を抱き寄せると、美優は腕の頭の位置が変わって寝にくくなってしまったのかモゾモゾと動いていたが、いい位置を見つけたようだ。








「……お休み、美優」



「おやすみ悠斗」






そう囁くように小声で交わされた挨拶に、やはり疲労は溜まっていたのかそれとも悠斗の腕の中にいる安心感なのか、美優は直ぐに寝息を立て始めた。




悠斗はそんな美優に微笑みたまにはこんな穏やかな夜も悪くない____と、目を閉じてゆっくりと意識を沈めていった。





きっと二人は互いに幸せな夢を見るのであろう。





二人でいれば悪夢も幸せな夢と変えるのだ。