いつの間にか拘束を解き、向かい合っていた二人は引き寄せられるように唇を重ねた。
深く、深く、どこまでも深く。
舌で深淵を探って、互いの体液を飲み込んで。漏れる息に二人の体が熱を持ち始めた。
ゆっくりと悠斗によってベッドに押し倒された美優の長い髪が広がり、それを見て悠斗の中で広がる支配欲にそっと笑みを乗せた。
「美優」
美優の髪に、おでこに、頬に、目尻に、顔のあちこちにキスを落としながら美優の上に覆いかぶさる。
チラリとその際ドアのカギを見るとちゃんと掛かっていたので、更に悠斗は笑みを深くした。
あぁなんて愛しい。
唇だけを避けてキスを落としていた悠斗を美優が不満げに見上げるので、悠斗はクスクスと笑みを漏らしながらチュッと美優の口の端にキスを落としてから、また唇に深いキスを落とした。
荒々しく口内を弄る舌と、流れ込んでくる悠斗の唾液を受けながら美優はジワジワと広がる快感に身を捩る。
「ふ、…っ」
息の抜けた声を漏らしてもそれは悠斗の口の中へと落ちるだけで外に漏れることはなかった。
悠斗が唇を離して美優を見下ろすと、頬を染めて息を乱しているその姿の扇情的なまでの美しさに欲は高められるばかり。
はぁ、と悠斗はひとつ切ない息を落として美優の首筋に顔をうずめた。
そこにキスを落としながらも美優の服の裾から手を入れていく。
簡単に美優の肌に悠斗の細くて長い、けれど男らしい角ばった手が触れ、腰回りをゆったりと撫でていった。
柔らかく、白い美優の肌を堪能するかのように悠斗の手は弧を描く。
その動作に美優はどうしようもない程の幸福感と、多少の恥じらいを感じ、自身の首筋を後の残らない程度吸っている悠斗の髪に手を差し入れそのまま撫でる。
それに気をよくした悠斗はそのまま上に手をずらし、華奢な美優だが大人にとっても出ているところはしっかり出ている部分を手で包もうとした時。
「……悠斗ー。来てくれる?」
階段の下から呼んでいるのだろうか。微かに聞こえる母親の声に、悠斗は思わずその顔に似合わず舌打ちを打った。
普段たまに舌打ちを打つこともあるのか、美優はそんな悠斗に怯えた様子を見せず目を伏せただけだった。
悠斗は名残惜しそうに美優の肌を最後に撫で、乱れている美優の髪を丁寧に手で梳いてやり、複雑な顔をしている美優にキスを一つ落とした。
「……最後まで、とは思ってなかったけど。タイミングが悪いな」
そうため息交じりに美優をそっと引っ張って起こした悠斗は、もう一度だけキスを落とす。
……ここがマンションだったら。と苦々しく思ってしまうのは仕方がない。
こんなに従順に悠斗の行動を受け入れる美優は珍しいのだ。この家だからこそだとは分かっているが、それでもマンションであったらと思わずにいられない。
美優も美優でせっかく悠斗が、と乗り気だった行為を中断されて高ぶった熱は収まらないやら、邪魔された怒りは沸いてくるやら、悠斗と離れるのが寂しいやらでむっすりとせずにはいられなかった。
だがこのままだと母親が来てしまう。それを互いは分かっているのでいくら顔は複雑そうな顔を隠さないでいても、声に出して続きをねだることはしない。
……鍵付きはいいけど防音に問題があるからやっぱりここでは無理だな、と悠斗はそう思って立ち上がった。
「……キスだけでいいなら、まだここにいて」
そして美優の頭を丁寧に撫でて、用があると言う母親の元へ、いつも通りの優し気な笑みを張り付けて出向いた。
そんな笑みからさっきまで妹を組み敷いていただなんて誰も連想することはない。


