No side*
志保とバッタリ鉢合わせた美優は直ぐにその場から去り、悠斗の部屋へ逃げ込むように入った。扉を閉めると浮かべていた笑みを美優は消し、そっと手探りで部屋の扉に____鍵を掛けた。
「美優、いい所に。これ少し持って…って。どうした?」
手早く殆どの荷物を片付けた悠斗は空になった段ボールを積み重ねて下へ持って行こうとしていたところだった。
けれど様子のおかしい美優を見て作業を中断し、美優の元へ寄る。
「…美優?」
「……アノ子と、会ったわ」
そうポツリと呟かれた美優の言葉に悠斗は一瞬で全てを理解した。
「……美優、おいで」
そして優しく美優の手を引いて買ったばかりのベッドへ腰かけさせる。悠斗もその横へ座るとベッドのスプリングが揺れ、美優の髪がサラリと小さく靡いた。
「悠斗。ねぇやっぱり無理。もう帰りたい…」
そう言って迷わず悠斗の胸に飛び込んだ美優を、悠斗は大切そうに抱きしめた。
ギュッと自分の服を掴んで来る美優の髪を悠斗は撫でながらそっと美優の耳に唇を押し当てる。
「俺がいる」
そのまま囁けば、小さく美優の肩が揺れた。今にも泣きそうな顔をしている美優が顔を上げ、悠斗の顔を伺う。
そんな顔をしている美優は今にも消えてしまいそうな程儚く、美しく、それは男の加護欲を掻き立てるにはあまりにも十分すぎるものであった。
悠斗は今度は強く、自身の胸に美優を押し付けた。
美優もそれに応えるように悠斗の首に手を回す。
ここに住むと決まってから精神的に不安定になってしまった美優。
悠斗の家にいる間は悠斗に冗談を言う余裕もあるのだが、この場では美優は悠斗がいなければ何もできない人間へと変わってしまっていた。
そもそも本来美優はその外見に似合わず気の強い性格をしているのだ。けれどここにいるとそれも真逆に変わる。
何かに怯えるように。何から逃げるように、何かを隠すように。
悠斗に寄り添って、悠斗の熱を愛を求めてキリのない胸の奥に佇む不安を消そうとする。
それでもこの場にいる限り、美優の心が安らぐことは決してない。悠斗と二人だけでいることが許された悠斗のマンションでなければ美優は心から笑うことができない。
悠斗もそんな美優のことを分かっていて、分かっているにも関わらずどうもしてやれない自分がもどかしかった。
だからこそ出来る限り美優をその身に抱き、美優を大事に宝物のように慈しむのだ。


