「どうして……知っているんですか?」
……ガーデニングが趣味であることは、友人にも打ち明けていないのに。
なんで数時間前にあったばかりのあなたが知っているんですか?
「教えない」
「なっ……!!」
答えを期待していた私は一色社長の大人げない態度に腹を立てそうになった。
「どうしてって聞けば教えてもらえると思うなよ」
一色社長はしてやったりと、ニンマリ顔で私の質問をばっさりと切り捨てた。
先ほどの嫌味に対する仕返しのつもりか?
(何よ!!もったいぶっちゃって嫌な感じ!!)
はぐらかされたことを不快に感じるあまり、もらったばかりの苗を突き返してやろうかと思った。
「知りたきゃ自分で思い出せ」
一色社長の言葉にドキリとさせられたのは、一度や二度の話ではない。
クラウディアから……己の前世から逃げるなと言われたような気がした。
もしかして、一色社長はこのために私の住むアパートまでやって来たのだろうか。
「まあ、俺はお前のことなら何でも知っているけどな」
……ちゅっと、吸いつくような柔らかい感触がした時にはもう遅かった。
「な、何するんですか!!」
すっかり油断していた私の頬に落とされたキスは、羽のように軽い。
「元夫の特権だ」
一色社長は少年のように屈託なく笑った。
(ずるい……)
こちらが全く覚えていないにも関わらず元夫の特権を行使するなんて、ずるいにも程がある。
「じゃあな」
用が済んだらしい一色社長は私の頭を無造作にぐしゃぐしゃと掻きまわすと片手を上げてさっさと退散してしまった。